なまくらどもの記録 ver.2

読了記録(節操無しエンタメ系)

読了本

  • 黄金の狩人3 (道化の使命) (創元推理文庫)」「ファーシーアの一族」シリーズの続シリーズの第一部完結巻。前シリーズを先に読まないといろいろネタばれなので、未読者はそちらからどうぞ。今は隠遁生活を送るフィッツは、養い子の成長だけが生きがいとなっていた。そこへ訪れる来客たちは、フィッツをまた王宮へと導く……?狼と絆を結んだフィッツのすさまじい怒涛の人生が終わったかのように思えたのに、またあそこへ行くのか?異世界ファンタジーとしてこちらがあぜんとするほどの過酷な試練を与えられる主人公の物語です。過酷だし、主人公はそのたびにくらーくなるんですが、なんでかそこが読んでいると快感なシリーズです。

 動物との絆を結ぶ<気>は穢れとされ、王家に伝わる<技>はとても似ている技術なのに代々受け継がれていく技術として伝えられている。しかし、<技>を伝える者は今やフィッツしかいない。一人王家に残された王子が、この力を受け継いでいることがわかって……というのがストーリーの始まり。この<気>を使う一族は昔から迫害されていて、フィッツも昔は接触したりしたことがあったのだけれど、ナイトアイズ(狼)との在り方を責められて、今は孤立して生活している。狼などの動物との関係の在り方、<気>について、そして世代交代が第一部のメインテーマです。年をとること、かつて自分が味わった苦しみを次の世代が味わい、そしてかつてわたしたちが受けたことをその世代にしてあげること。大人が読んでぐっとくる話です。

<狼になれ、兄弟。そうすれば物事がよりよく見えてくる。>
ナイトアイズ「黄金の狩人3 (道化の使命) (創元推理文庫)」(ロビン・ボブ・鍛冶靖子創元推理文庫)p95より

 以下ネタばれ。小説でこんなマジ泣きしてしまったの初めてかも。(;_;)なんだろう、狼だから?


 道化と狼とだけになってしまったフィッツは、<気>を使う王子の追跡を続けるが、その過程は過酷を極め、果ては仲間を置いていかなければいけない状況に追い込まれる。この時のナイトアイズと道化の覚悟から、もう泣けて泣けて……。私は自己犠牲の話は好きではないのですが、特にナイトアイズは、以前から死を意識していて、ここで死ぬ、と決めた。自分の死がフィッツに与える影響も意識していて、フィッツに対して生きる義務を負わせてでも生きさせようとする。ナイトアイズはフィッツを群の一員として扱い、王家とか暗殺者として生きるのではなく、狼として生きろ、と言っている。もうこれだけで泣ける。
 この時点で、王子は誰にも一人の人間としては扱われていなくて、ただの道具としか扱われていない。それは、実は前シリーズのフィッツと同じ。フィッツは庶子で、かつ暗殺者として育てられたという過去を持つけれど、彼は彼なりに輝かしい時代を過ごしてきたのに、王子はそれを与えられず、王子ではない時間を得ることができなかった。だからこんな行動に出たんだけど、それは責められるようなことではなく、彼を見捨てることは、フィッツにとってできることではないのがよくわかります。
 そして訪れたその後、ナイトアイズの旅立ち。続くフィッツの喪失感。死について、死なれた後の人の気持ちについて、こんなに泣けたのは初めてでした。フィッツとナイトアイズはお互いに深すぎるほどの絆を結んでしまったがゆえに、狼は自分から分かち、フィッツのことをひたすら思い、かつ自分にとっての旅立ちを選んでいく。こんな関係を築けたらすごいことだなあ……。シェイドもまた同じなところがまた(泣)。自分がそんなふうにしてしまったフィッツが、やっとそんなことを言えたことを喜ぶ。彼の旅立ちもまたもうすぐくるんだろう……ぐぅ。
 次巻以降では、ジンナがメインに関わってきそうなので楽しみです。王子もぜひ反抗してほしい(笑)。