2010年度に私が読んだ小説ベスト10
・越谷オサム
今年の一番の収穫は、越谷オサムさんに出会えたことだなあと思います。青春・ラブコメサイコー!作品によって、しんみりよいもの*1もあり、音楽もの*2あり、幽霊もの*3あり。ちょっとあたたかい感じが好きな人には特におすすめ。最もおすすめなのは「金曜のバカ」。たのしすぎる……!文庫出たら買おう。
「じゃあ、なんで?」
「楽しいから」自分でも不思議なほど、自然にそのひと言が出てきた。
「階段途中のビッグ・ノイズ (幻冬舎文庫)」(越谷オサム・幻冬舎文庫)p225より
→この作品が好きな人へおすすめな作品
「少年少女飛行倶楽部」中学に入学した海月は、くされ縁の可愛い樹絵里に無理やり飛行クラブに入れさせられる。自らの力で空を飛ぶことを目指す飛行クラブは、どうやって空を飛ぶのか?
・「扉守」(光原百合・文藝春秋)
ちょっと不思議なできごとを集めた奇譚集。どれも、現実にふっと少しだけ違う色を添えられたようなお話でとても私好みでした。なんとなく、村山早紀さんや、矢崎在美さんの話を想起しました。特に女性におすすめ!
『とても悲しいけれど、残念なことだけれど、存在しているせいで自分も周囲も不幸になってしまう「想い」というのが、この世にはある』
「扉守(とびらもり)」(光原百合・文藝春秋)p212より
→この作品が好きな人へおすすめな作品
「夜の童話 (バーズコミックス)」紺野キタさんによる短編集。マンガですが、同じ感覚で好きです。
・「カラクリ荘の異人たち」4巻(霜島ケイ・ソフトバンククリエイティブGA文庫)
もののけの世界との接点である、カラクリ荘に住む太一が、最初は人間じゃないみたいだったのに、少しずつ変わっていく物語の完結編。説教臭くない、じっと見守るわけでもなくというところがとても好きでした。女の子にもおすすめ。
――何もかも、壊れるばかりじゃ、ありませんよ。
「カラクリ荘の異人たち 4 ~春来るあやかし~ (GA文庫)」(霜島ケイ・ソフトバンククリエイティブGA文庫)p300より
→この作品が好きな人へおすすめな作品
「神様が用意してくれた場所 (GA文庫)」「いい話」、「泣かせる話」だけの話ではなくて、あまり積極的にやってみよう!という性格ではない香絵が、ふつうは見えないものたちと交流し、彼らの言うことと、生きている人たちの話を聞いて、自分で判断して少し手伝ってみる、というスタンスが、おしつけがましくなくて心地よい。
・「サクラダリセットシリーズ」(河野裕・角川スニーカー文庫)
特別な「能力」を持つ者たちが住んでいる「咲良田市」で、対となる能力を持つケイと春崎。二人の出会いと短編集。「空気感」が特長である方です。さわやかなだけの世界ではなく、まったき善でもなく、罪悪感と、それだけではなく進んでいくちからを持った少年少女たちの物語。きれいなだけではないセカイが、見たい人におすすめです。
「僕たちは、女の子の涙を消しに行こう。そんなもの、この世界から消し去ってしまおう」
浅井ケイ「サクラダリセット3 MEMORY in CHILDREN (角川スニーカー文庫)」(河野裕・角川スニーカー文庫)p244より
「できるなら僕は、幸せだけを作れるようになりたい。神様が奇跡を起こすように、誰も傷つけない方法で、誰かを幸せにしたい」
浅井ケイ「サクラダリセット4 GOODBYE is not EASY WORD to SAY (角川スニーカー文庫)」(河野裕・角川スニーカー文庫)p235「Strapping/Goodbye is not an easy word to say」より
・「ヴィクトリアンローズテーラーシリーズ」(青木祐子・集英社コバルト文庫)
ヴィクトリア朝時代の英国。「恋を叶えるドレス」をつくることで有名な「薔薇色」の店主クリスと、公爵家の長男シャーロックとの身分違いの恋の話。二人の物語は恋人になることがゴールではなく、恋人となってからが問題。その問題をひとつひとつお互いのことを考えて、行動のしかたを変えて、解決していくことが大切なんだなと。読んでいてとても幸せ感*4が高いのも素晴らしく好きなシリーズです。特に大人の女性におすすめです。
「取戻すもなにもない、俺のものだ。どうかしていたんだ。クリスは俺のためを思って身をひいただけだ。それ以外に何か、俺をきらいになる理由があるとでも?」
シャーリー「恋のドレスと聖夜の求婚 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)」(青木祐子・集英社コバルト文庫)p289より
めげるな。怒るな。受け止めろ。
シャーリー「恋のドレスと湖の恋人 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)」(青木祐子・集英社コバルト文庫)p28より
→この作品が好きな人へおすすめな作品
「ニューヨークの魔法使い <(株)魔法製作所> (創元推理文庫)」田舎からニューヨークへでてきたら、なんか変な格好した人たちがいる……と思ったら実はそれは「妖精」で、しかも魔法を「売る」会社にスカウト?米国産ラブコメですが、日本オリジナルの続編が出るほどの日本人気の高い、めちゃくちゃシャイな彼がたまらなくラブリーでかつ、ヒロインが魔法ではなく頭で困難を切り抜け、出世街道驀進していくお話。キャラクターがしっかりしていて、大人が楽しめるラブコメ仕事ものとしておススメです。
・「クシエルの矢」3巻「クシエルの使徒」全3巻「クシエルの啓示」全3巻(ジャクリーン・ケアリー・和爾桃子訳・早川書房早川文庫FT)
高級娼婦兼スパイとなるべくして育てられたフェードル(真性のM)が主人公。娼婦が神聖なるものという神話がある国で、天使様にお使えすること=娼婦としての仕事をすることという倫理観がある。フェードルについての設定が各巻で活かされるのですが、設定が設定だけに……痛々しくも、彼女だから、というところがある。この物語の一番の売りは色っぽいところではなく(むしろそれは意識しなくてよい)、陰謀に次ぐ陰謀、そしてそこを武力ではなく頭と口でのりきっていくフェードルの痛快さです。当初は対立するばかりだったジョスランとの相棒っぷりがまた!そしてそして、敵役であるあのお方の存在感と恐ろしさっぷりがまた素晴らしい。それぞれのシリーズの最終巻での物語の盛り上がりは圧巻です!
「カシエル様の御名にかけて」これ以上ないほど落ち着き払った声でそう述べた。「保護奉仕こそわが務め」
「クシエルの矢〈3〉森と狼の凍土 (ハヤカワ文庫FT)」(ジャクリーン・ケアリー・和爾桃子訳・早川書房早川文庫FT)p425より
→この作品が好きな人へおすすめな作品
「帝国の娘〈前編〉―流血女神伝 (コバルト文庫)」「帝国の娘〈後編〉―流血女神伝 (コバルト文庫)」どとうの人生にぶちこまれて、神にもてあそばれるカリエは、それでも常に前向きで決してめげつづけはしない!というところが面白いシリーズ。フェードルほどひさんではないかもしれないけど、ジェットコースター度はこちらの方が高。
・「黄金の狩人 道化の使命」全3巻(ロビン・ボブ・鍛冶靖子訳・創元推理文庫)
「ファーシーアの一族」シリーズの続シリーズの第一部完結巻。今は隠遁生活を送るフィッツは、養い子の成長だけが生きがいとなっていた。そこへ訪れる来客たちは、フィッツをまた王宮へと導く……?狼と絆を結んだフィッツのすさまじい怒涛の人生が終わったかのように思えたのに、またあそこへ行くのか?異世界ファンタジーとしてこちらがあぜんとするほどの過酷な試練を与えられる主人公の物語です。過酷だし、主人公はそのたびにくらーくなるんですが、なんでかそこが読んでいると快感なシリーズです。読むなら前シリーズから!ぜひ! 世代交代が第一部のメインテーマでした。年をとること、かつて自分が味わった苦しみを次の世代が味わい、そしてかつてわたしたちが受けたことをその世代にしてあげること。大人が読んでぐっとくる話です。3巻では滂沱の嵐でした。狼の心情もものすっごく良いので、狼好きにも押し押し!
「苦痛だな。ファーシーアの一員であることは、おれにとって苦痛をしか意味しない。苦痛。そして使役されることだ」
フィッツ「黄金の狩人2 (道化の使命) (創元推理文庫)」(ロビン・ボブ・鍛冶靖子訳・創元推理文庫)p126より
<狼になれ、兄弟。そうすれば物事がよりよく見えてくる。>
ナイトアイズ「黄金の狩人3 (道化の使命) (創元推理文庫)」(ロビン・ボブ・鍛冶靖子訳・創元推理文庫)p95より
→この作品が好きな人へおすすめな作品
「オオカミ族の少年 (クロニクル 千古の闇 1)」人類が農業を発明していなくて、まだ狩猟でだけで生計を立てている時代のヨーロッパが舞台。オオカミの言葉がわかるトラクと、トラクを「兄貴」と慕うオオカミのウルフ、そしてトラクの友達レンたちの古代冒険ファンタジー。狼目線、神です!(笑)
・「星をさがして」(張間ミカ・徳間書店ノベルズEdge)
「星の部屋」をつくるためなら(わりと)手段を問わない「妖精遊び」の魔女、ガートルードは、そのために「夜の神」ノクスを召喚した。けっこう強引なのに可愛いところもあるルードも読んでいて痛快。情景がとても彩り豊かなお話で、児童文学と一般向けファンタジーの中間ぐらいの感覚で読めました。黒猫もいい味出していてよかった。
「君はいつも、何かを忘れようとするみたいに空を見上げるね」
ノクス「星をさがして (トクマ・ノベルズEdge)」(張間ミカ・徳間ノベルスEdge)p194より
・「金星特急」1〜3巻(嬉野君・新書館ウィングス文庫)
謎の美女金星の婿を決めるためという金星特急は途中下車は許されず、命をもかけた旅。ばらばらの個性が魅力の三人が、次に受ける試練は?
最初はどういう方向になるのかなーと見守る気持ちでしたが、それぞれの巻でのコメディ部分も楽しく、ラブコメも入り、更に大きな枠での謎やストーリーも面白くなってきました。嬉野君さんの作品は、デビュー作から全部読んでいますが、全部面白いし、どんどん成長していると思います。おすすめ。
金星特急は、どこから来てどこへ行くのか誰も知らない。
そして、途中乗車も途中下車も出来ない。
「金星特急 (1) (ウィングス文庫)」(嬉野君・新書館ウィングス文庫)p224より
→この作品が好きな人へおすすめな作品
「天涯のパシュルーナ (1) (ウィングス文庫)」盗賊の義父に育てられたトゥラルクは、盗賊の頭目となったが、いきなりあなたは王子だと言われる。ファンタジー要素はほとんどなしで、頭と口をつかって攻略する系なので、そういうのが好きな人はぜひ。こっちと「金星特急」とどちらをベスト入りさせるか迷いました。どちらも面白いですよ〜。
・「御書物同心日記」全3巻(出久根達郎・講談社文庫)
将軍様の書物を管理する御文庫に勤める御書物同心の新米で古本好きの丈太郎の始末記。古本好きで、何に対しても面白がって対応できる主人公が好印象です。これほど面白い「本ネタ」の本を知らなかったなんて!と思った作品でした。「本ネタ」の小説って、意外と私が気に入るものがあまりないのですが、これはものすごく本への愛情が感じられて面白かった。おすすめです。時代ものあまり読まない人でも比較的読みやすいと思います。
おすすめされていたnanakikaeさんに感謝!
「雨の日というのは、不思議に本が読みたなるし、買いたくなる」
「御書物同心日記 虫姫 (講談社文庫)」(出久根達郎・講談社文庫)p87より
2010年度に私が読んだ新人小説ベスト3
・「“菜々子さん”の戯曲 Nの悲劇と縛られた僕」(高木敦史・角川スニーカー文庫)
「持病」を抱えるため、周囲からは嫌われず、好感度高いのに、実はちょっと「陰険」?な菜々子さん。菜々子さんが通っている病院にいるのは誰なのか……。逆転の逆転、なほんとのラストはなるほどねー、と思った。よいラストノベルミステリ。そして新人とは思えない安定感。黒「リンネ」かも。
「つまりあなたの性格――面倒なことはやり過ごして、結果を見てから判断しようかなっていう性格ね、それならまあ仕方ないかなって。わたし、あなたのそういう性格はわりとよいと思っているし、自分も似たところあるしね。」
菜々子さん「“菜々子さん”の戯曲 Nの悲劇と縛られた僕 (角川スニーカー文庫)」(高木敦史・角川スニーカー文庫)p169より
・「女王家の華燭」(葵木あんね・小学館ルルル文庫)
敵国に婿入りすることになった第三公子。行く前はゆううつだったが、二人は運命の出会いと感じた。最初はぶつかりあっていたのに、公子がおっとりした感じがよい障壁になってよいい効果。らぶらぶ好きに人にはおすすめ。面白かったです。
・「風の島の竜使い」(片倉一・中央公論新社C・NovelsFantasia)
女だてらに竜使いをしているレラシウが幼馴染の竜使いに嫁いだはいいが、竜使いはやめた方がいいと言われて大げんか。夫のいない間に受けた仕事で別の街に向かった途中で思わぬ事態が起きる。最初はカタカナだらけの用語に困惑しましたが、読んでいくにつれて若夫婦のやりとりがどんどん面白くなってきた。竜に対する竜使いの態度が一貫していて読んでいて違和感なく読むことができました。特に竜好きにはおすすめ。「ドラゴンファーム」が似た傾向の話かも。
「幸運は続きません」
レラシウ「風の島の竜使い (C・NOVELSファンタジア)」(片倉一・中央公論新社C NovelsFantasia)p185より
2010年に読んだマンガベスト5
・「三日月の蜜」(仙石寛子・芳文社まんがタイムコミックス)
同僚の杉が好きなのに、杉は常連の桃子さんが好き。いらいらして、つい桃子さんに言ってしまったのは……。切ない情感がありつつも、幸せな感情が溢れるところが素晴らしい。好きだー!普段四コマ漫画を読まない方にもおすすめです。ちょっとした表情やぶちっと切られたネームが魅力的です。今年のベストはコレでした。
・「このこここのこ」2・3巻(藤こよみ・一迅社)
同級生の姉弟になったふたりの関係をメインとした家族もの。恋愛でもない、ただ家族になっていくのを見ているのがとても楽しく、そしてしあわせ。特に遥斗のひょーひょーと素直な人柄が特長でした。大好きなシリーズだったのに、完結……もっと続けてほしかったっ。
・「となりの怪物くん」4〜6巻(ろびこ・講談社コミックスデザート)
勉強大好きのガリ勉女、シズクにつきまとう、極端に人づきあいの下手なハル。二人の間にあるのは、恋愛なのか?お互いにフツーのコミュニケーションが下手だけどわが道をゆくタイプな二人のラブ?コメ。白泉社好きにおすすめな淡々とした独特の感じが楽しいシリーズです。
・「恋だの愛だの」1巻(辻田りり子・白泉社花とゆめコミックス)
愛だの恋だので腹がふくれるか?とか言いつつ、(恋愛以外に)好奇心満載な高校デビューしたかのこは、「親友」との生活にわくわくいっぱい!なんてあらすじからは想像できない、にやり笑いが板に付いたかのこ様の高校生活です。前作の「笑うかのこ様 1 (花とゆめCOMICS)」も好きだったけど、こっちはもっと気に入った。きちんとストーリーマンガとなっていてよいなあ。彼のむくわれなさも痛快(笑)。
・「プリーズ、ジーヴス」2巻(勝田文・白泉社花とゆめコミックススペシャル)
正直アホ(笑)のバーティーと、彼の面倒をみているお付きの者であるジーヴス。もはや天才といってもよいジーヴスが、生ぬる〜いけどにやりと見つめるバーティーの姿が楽しくてたまらん〜。特に大人の女性におすすめです。1巻より2巻の方が面白かったので、2巻から読むこと推奨です。