なまくらどもの記録 ver.2

読了記録(節操無しエンタメ系)

2009年上半期ライトノベルサイト杯(新規作品部門)

「鳥は星形の庭におりる」(西東行・講談社ホワイトハート
鳥は星形の庭におりる (講談社X文庫ホワイトハート)
 貴族の幼い娘、プルーデンスは愛していた祖母を喪い、聡明であるゆえに家族で孤立していた。祖母の故郷、アラニビカ島に家族で向かう途中、港で青い衣をまとった詩人を道連れとするが、彼はどこか怪しげな男で……。アラニビカ島に眠る謎の塔をめぐるミステリ。
 12歳なんだけど10歳ぐらいに見える、理知的で行動的だけれど、大人なわけではないプルーデンスがとにかく魅力的。表紙イラストが、彼女と詩人の魅力をとてもよくあらわしていると思います。詩人は、こういうストーリーでは虚弱なタイプに描かれることが多いけれど、色黒だからか、しっかりとした骨格の男、というイメージで、そこが今までの物語とは違っていて新鮮でした。ミステリ風な物語も、しっかりとした情景描写もよくて、世界をたんのうできました。ファンタジーは、抒情に流そうと思えばいくらでも流せるけど、この物語はしっかりと地に足がついた、肉体がある人間がいきている感じがとれて、そこがとても私の好みでした。これで新人とは!ぜひ次回作を読みたいです。

「でもお前が単純だと言った五角形の中にも黄金比はあるのよ。正五角形の一辺と対角線との比はすべて黄金比となるの。そして正五角形の交わる対角線は、互いに他の対角線を黄金比に分けるわ。正五角形の中には多くの黄金比、つまり美が隠されているのよ。人が賢くなれば、正五角形の中にもっと美しさを見つけられるかもしれないわ」
プルーデンス「鳥は星形の庭におりる (講談社X文庫ホワイトハート)」(西東行・講談社X文庫ホワイトハート)p74より

【09上期ラノベ投票/新規/9784062865876】

星図詠のリーナ」(川口士一迅社文庫
星図詠のリーナ (一迅社文庫)
 リーナは王女でありながら、地図作成が趣味。下町へ旅人の噂を聞き込みに行っていたところ、王から呼び戻された。ある港町の地図を持ちかえってほしいという依頼に喜んで応じるリーナだが。
 いやー、地味でいいねぇ(笑)。地味だけどしっかりと考えられた異世界ものってなんでこー楽しいんだろう。リーナはものの相場も知ってるし、下町の食べ物もおいしくいただける。それでいていつもにこにこできるのは、王女様であり、かつ嫌な思いも知っているからですよね。そんなリーナの人の良さが嫌みでなくて、しっくりきました。ストーリーは地味だけど、だからこそ地に足をつけた一人一人が生きていそうに感じられる世界が描けるってものです。面白かった。2巻も発売予定。

「あなたが歩いた道を、見たものを、その中に描いていくの。この星の――あなただけの地図を」
星図詠のリーナ (一迅社文庫)」(川口士一迅社文庫)p6より

【09上期ラノベ投票/新規/9784758040686】

サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY」(河野裕角川スニーカー文庫
サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)
 異能者たちが現れてきた咲良田市では、「管理局」が異能者たちを取り締まっている。「管理局」に目をつけられているケイと美空、その能力からペア扱いされ、二人で管理局からの依頼をこなしていた。今度の依頼は、「猫を生き返らせてほしい」というもの。美空が「リセット」ということにより、世界は「セープポイント」まで巻き戻す。そこは、まだ猫が生きている世界。
 乙一米澤穂信を想起する流れるような透明感のある文章でした。特異なキャラクターではないので、あまりライトノベルぽくはないんだけれど、メインストーリーはライトノベルぽく異能を扱っています。これはすごい新人だなーと思いました。美空がなんでそこまでケイに懐くのかとか、もれているところはあるけれど、この文章だけでもすごくよかったし、十二分に面白かった。これからが楽しみです。このシリーズだけに縛られず、いろんな作品を書いていってほしいです。一般文芸でもいけそうな気もします。女性にもおすすめです。

「雨の日、濡れている人がいたら、傘に入れてあげましょう」
ケイ「サクラダリセット CAT, GHOST and REVOLUTION SUNDAY (角川スニーカー文庫)」(河野裕角川スニーカー文庫)p297より

【09上期ラノベ投票/新規/9784044743017】

「ペテン師一山400円」(嬉野君新書館ウィングス文庫
ペテン師一山400円 (新書館ウィングス文庫)
 曾祖母の危篤の知らせを受けてひょこひょこ出向いたら、遺産相続のためにあるゲームをしないかと誘われた中学生。最近流行のYA系レーベルに入っていそうな、さわやかなコン・ゲーム。お兄さんがヘタレなのがよいかも。BLぽさは空気すら無しなので男子諸君にもおすすめです。素直に面白かった。続編希望!

「哲学って?」
「詐欺師は犯罪者の貴族だと」
純太と研士「ペテン師一山400円 (新書館ウィングス文庫)」(嬉野君新書館ウィングス文庫)p98より

【09上期ラノベ投票/新規/9784403541384】

「楽園まで」(張間ミカ・徳間ノベルズEdge)
楽園まで (トクマ・ノベルズEdge)
 雪に閉ざされた世界で、<悪魔>と呼ばれる異能者である双子は、楽園を目指して旅を続けていた。<悪魔>を追う狩人たちが二人を見つけて……。
 ストーリーはわりとストレートな感じなのだけれど、文章の雰囲気と情景描写がとてもよい。さくさくと音をたてて雪を踏みしめて歩いていく姿が印象的。友風子さんのこの表紙が好きな人は気に入ると思います。どことなく、紅玉いづきさんぽい印象を受けました。これでストーリーがついてくれば、もう鬼に金棒な感じだと思う。二作目は違う話で、を期待!
【09上期ラノベ投票/新規/9784198508142】