2008年下半期ライトノベルサイト杯(新規作品部門)
・「wonder wonderful」(上下)(河上朔・イースト・プレス)
サイトtherehereで公開されている、河上朔さんによるネット小説の書籍化。書き下ろし短編あり。ストーリーは、異世界旅行者(こっちは王子様と出会い、らぶらぶーというふつうのファンタジー恋愛ものな展開)の妹を持つ社会人の姉が、その異世界に行ってしまったら、というところから始まり、騒動に巻き込まれていくという話。
主人公が少年少女ではないため、起こった出来事にただそのまま反応するのではなく、自分でそしゃくして、相手の気持ちを考えて、自分がどうすればいいか考えて、そこまで考えて、でも自分の感情もまだそこにあって、それを抑えるけれど抑えきれないことだって、大人にはあるんだよというところが、ものすごくよい。そして、それを他人に当たるのではなく、他のところで昇華させていこうとする主人公が好感が持てる。恋愛体質でない主人公が、かたくなっぽい男を自覚なく振り回すのも楽しい。ファンタジーっぽい出来事は起こらず、出てくる設定といえば洋風ファンタジーのような王家、政争設定のみ。大まかな流れは多分ネットと同じで、でも本で読めて嬉しかった。このイースト・プレスから出ているシリーズでは、一番まとまっているし、文章もしっかりしていてよいと思う(全部読んだ訳ではないが)。おすすめです。いわゆる悪役がいないストーリーですが、ひとりひとりが魅力的。いちいち姐さん根性で誰にも言わないコカゲが愛おしくなります。基本は、つっぱしることしかできなかった十代の頃とは違う、大人のものの見方を楽しむ話なので、大人の女性に特におすすめ。主人公ロマンチック体質ではないので、男性でも楽しめるかな、と思います。
大判なので、ライトノベルとしておすすめするには迷いましたが、新人としておすすめ。
「そうやって周りに安らぎを与えて、でもそれじゃあお前はどうやって安らぐんだ、コカゲ」
ルカナート「wonder wonderful 上 (レガロシリーズ)」(河上朔・イースト・プレス)p353より
【08下期ラノベ投票/新規/9784872579451】
・「翼の帰る処」(上下)(妹尾ゆふ子・幻狼ファンタジアノベルス)
病弱な上にある「症状」を持つヤエトは、ひたすら隠居することを夢見ているのに、ついつい正直に発言してしまうことから、やっかいごとに巻き込まれがち。尚書官として辺境の地へ追いやられたヤエトは、これでゆっくりできるかと思っていたが、新たなやっかいごとを抱えただけだと知るが、更にその上の事態が待っていた。隠居願望第一なのに、ついつい他のことが気になってしまって人からの好意を寄せてしまううっかりさん、ヤエトくんの苦労記(笑)。
今までの妹尾ゆふ子さんの作品の中で、一番会話が楽しい作品になったのではないかと思います。上巻のフィールドワーク的な伝承からの推察や、「名前」が意味を持つ世界ならではでの設定など、私のツボが押されまくりでした。あー面白かった!舞台は異世界でファンタジーな設定もありですが、ライトノベルの読者でも楽しめる作品になったのではないかと。主役は隠居ご希望の苦労性な男性なので、男性も充分楽しめると思います。続巻も構想中のようなので、楽しみです。
「……正統派を名のるには、若すぎませんか。実年齢もですが、見た目も」
「見目より心です。心構えが、隠居なのです。正統派が駄目なら、本格派隠居でも結構です」
伝達官とヤエト「翼の帰る処 下 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-2)」(妹尾ゆふ子・幻狼ファンタジアノベルス)p48より
【08下期ラノベ投票/新規/9784344814936】
・「迷宮街クロニクル」(林亮介・ソフトバンククリエイティブGA文庫)
京都に突如現れた地下迷宮。そこには見たこともないような怪物たちが生息し、それらを狩り、生活の糧とする者たちがいた。その死亡率は14%。異常に高い死亡率だが、それに対する各自への見返りのため、彼らは今日も地下へ潜る。あくまで自分の意思でこの道を選び、そしてたやすく死んでいく者、生き残った者、それぞれがあっさりと、そして深く語られます。
某RPGが現実世界にあったら、という発想で以前ネットで公開されていたものの商業出版されたもの。(現在は非公開)もともと面白かったのですが、ことあるごとにバージョンアップして、より読みやすくなってきていると思います。視点がころころ変わるのと、キャラククターが多いので読みにくい人はいるかも。ちょっと大人向け。おすすめです。
【08下期ラノベ投票/新規/9784797350623】
・「放課後の魔術師」(土屋つかさ・角川スニーカー文庫)
図書館でのボヤ騒ぎの後、転校生らしき少年と出会った女子高生。ある秘密を彼に話してしまうが、彼は実は「教師」で、しかもなんだかあやしい技を使う!?
久々の新人ヒットでした。論理魔術を使う17歳の教師と、16歳の女生徒の魔術らぶこめ。ローテンションヒーローとハイテンションなみかけを使って相手の様子を伺っている彼女、という関係が犀川&萌絵コンビをほうふつとさせます。少し頭をつかったやりとりなところもポイント高し。魔術にもきちんと法則があるので、ファンタジー好きにもおすすめです。女の子も魅力的なので、これは女の子にもおすすめ。
『気になるに決まっている』
秋津安芸「放課後の魔術師 (1)オーバーライト・ラヴ (角川スニーカー文庫)」(土屋つかさ・角川スニーカー文庫)p305より
【08下期ラノベ投票/新規/9784044740023】
・「迷走×プラネット」(神尾アルミ・一迅社文庫アイリス)
宇宙からやってきた軍人の女の子は、地球を調査していたが、とちゅうで迷子になった部下を探すために居残り。部下は見つけたが、本部と連絡がとれなくなってしばらく地球の田舎で暮らすことになった彼女は、高校に入り込む。ちょっとばかり身体能力が地球人より優れている女の子が、力の制限にびくびくしながらも、漫画喫茶で暮らしたり、マンガに夢中になったり、トモダチをはじめて作って喜んだりする。
軍隊のリアリティはなかったけど、地球の暮らしを楽しむ様子と、ここでの生活を失いたくない!という気持ちがよく描かれていたのがよかった。シリーズ化希望。
【08下期ラノベ投票/新規/9784758040419】