2007年下半期ライトノベルサイト杯(既存作品部門)
・「流血女神伝シリーズ」(須賀しのぶ・集英社コバルト文庫)
【07下期ラノベ投票/既存/9784086010900】
八年に渡ってつづられた、「流血女神伝」シリーズが完結。神と人の話、にしては神の分量が(特に初期は)少な目でしたが、人が生きる世界の話、そしてそこを覗き込む滅びつつある神たちの話として、エンタテインメントとしても優れた話、素晴らしい物語でした。シリーズ通して、おすすめです。読むなら、「帝国の娘〈前編〉―流血女神伝 (コバルト文庫)」からがおすすめ。
互いに自由になって、自分の足できちんと立てるようになったら、また。都合のよい願いだとは思うけれど、心からそう思う。
カリエ「喪の女王〈7〉―流血女神伝 (コバルト文庫)」(須賀しのぶ・集英社コバルト文庫)P221より
・「忍剣花百姫伝」4巻(越水利江子・ポプラ社Dreamスマッシュ!)
【07下期ラノベ投票/既存/9784591098905】
忍者の一族の末裔である花百姫(は、かつて父を殺され、生まれた城を追われ、一人で「捨て丸」という名で生きてきた。花百姫として見いだされてからも、慕う八忍の一、霧矢ともあまり一緒にはいられず、さみしく思っている。花百姫は姫ですが、忍者の姫だからか、おとなしいなんてとんでもないようなことばかりしているにも関らず、常に真剣で芯が強いところが魅力的です。
児童向けに描かれてはいますが、ある意味容赦がないストーリー、描写ですし、キャラクターとしてももりだくさんな内容です。注釈を増やしているため、大人でも充分楽しめるようなできだと思います。特に、時代もの、忍者ものが好きな方にははまらせる勢いのある話です。ライトノベル読者にもおすすめです。霧矢と花百姫の年の差カップルに萌えます(笑)。
・「ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ」(青木祐子・集英社コバルト文庫)
【07下期ラノベ投票/既存/9784086010801】
ヴィクトリア朝時代の英国で、「恋を叶えるドレス」をつくることで有名な「薔薇色」の店主クリスと、公爵の長男シャーロックとの身分違いの恋の話。シャーロックいじめられモードが大好き(笑)。短編集もよかったです。
「花の香りが似合うようにつくりました。装飾品のかわりに、香りをつけてください」
クリス「あなたに眠る花の香 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)」(青木祐子・集英社コバルト文庫)P191「あなたに眠る花の香」より
・「風の王国シリーズ」(毛利志生子・集英社コバルト文庫)
【07下期ラノベ投票/既存/9784086010993】
唐の時代に吐蕃に嫁いだ皇帝の姪を中心とした話。いきなり主人公翠蘭が最初の巻で結婚してしまう、しかも政略結婚であり、義理の息子もできるという、少女小説には珍しめの話かと。ファンタジーではなく、時代ものです。吐蕃(チベットに存在した王国)を舞台とした小説、というだけで私にはわくわくものなのですが、風習や人々の違いと同じところが描かれるのが楽しくて好きなシリーズです。さっぱりとした翠蘭の人柄も魅力的です。時代ものだと、どうしてもロマンティックになりがちなのですが、この小説は恋愛ありでありながら、ロマンティック方向に流れないところが好きです。あくまで実務を重んじる翠蘭とリジム、しかし感情も忘れない彼らは、生きている人間と感じられます。
キャラクターとしては、歩くことのできない占者であり主人公の親友である朱瓔に私はらぶらぶ。
「言葉ではないが、ウサギを馳走になった」
翠蘭「風の王国―初冬の宴 (コバルト文庫)」(毛利志生子・集英社コバルト文庫)p144より
「たくましい女は、王妃一人で十分だ」
リジム「風の王国―初冬の宴 (コバルト文庫)」(毛利志生子・集英社コバルト文庫)p238より
・「"文学少女"シリーズ」(野村美月・エンターブレインファミ通文庫)
【07下期ラノベ投票/既存/9784757739185】
文芸部の遠子先輩は、物語を書いた紙をぱくぱく食べる「妖怪」。彼女の「おやつ」のため、井上心葉は毎日三題話を書かされていた。"文学少女"の周囲で起こる文学がらみの事件を描いたシリーズ。毎回ある文学作品をテーマとして、現在の青少年たちの悩みや苦しみ、悲しみを上手く描き出している。
今期は抜群!というほどではなかったけれど、コンスタントにいい成績を出していると思う。クライマックスが近いので、楽しみです。短編集も出してください。
「あなたがなりたかったのは、どんな人?」
"文学少女"「“文学少女”と慟哭の巡礼者 (ファミ通文庫)」(野村美月・ファミ通文庫)P342より