2009年下半期ライトノベルサイト杯(既存作品部門)
・「ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ」(青木祐子・集英社コバルト文庫)
英国ヴィクトリア朝時代、恋のドレスをつくると噂のお針子クリスと、公爵令息のシャーロックの身分違いの恋愛です。最近はすっかりうまくいっていた二人なのに、イヴリンとユベールを巡って、そこに亀裂が……?
今季は、このシリーズが一番素晴らしかった。もともと、すごく人物描写がいいシリーズだなあと思っていたのですが、今回は特にその筆が冴えてきたような気がする。人物像がとてもしっかりしていて、まるで生きている人のように、この人ならこうするだろう、この人はこうするだろう、というのが私たちにもわかるようになっているからだと思います。全てが読める、というわけではなくて、ああこの人はこうするんだ、実に彼らしいな、といった具合なんだよなあ。いい人も悪い人もいなくて、いい面も悪い面も納得できる。特に主人公の親友、パメラは、多くの女性に愛される人だと思います。
男ものの手袋なんて、作ったことがなかったんですけど――とクリスは恥ずかしそうに言った。
あたりまえである。俺のもの以外、作る必要はない(一生)。
「聖者は薔薇にささやいて―ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (コバルト文庫)」(青木祐子・集英社コバルト文庫)p58より
「昔は、心を形にするだけだった。自分と、相手の気持ちしか見てなくて、それがいいか悪いかなんて、考えなかったの。でも今は、お客さんがしあわせになってほしいと思うの。私の望みを、ドレスに託したりなんてしないわ」
クリス「恋のドレスと追憶の糸―ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (コバルト文庫)」(青木祐子・集英社コバルト文庫)P128より
「クリスをぼくに譲ってくれませんかね、シャーリー」
ジャレッド「恋のドレスと聖夜の迷宮 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)」(青木祐子・集英社コバルト文庫)p142より
【09下期ラノベ投票/既存/9784086013550】
・「身代わり伯爵シリーズ」(清家未森・角川ビーンズ文庫)
こうと決めたら無鉄砲きわまりないけど健気で思いやり溢れる女の子、ミレーユの冒険譚、シアラン編。公女だけではなく、ミレーユが狙われている?またしても危険な地へ向かうミレーユはリヒャルトと再会できて……。
らぶらぶ増強中!コメディも楽しく、すごく安心して楽しめるシリーズです。おすすめ。
「ごめんで済むわけないでしょー! どうせやるんならもっと普通にやりなさいよね!」
ミレーユ「身代わり伯爵の失恋 (角川ビーンズ文庫)」(清家未森・角川ビーンズ文庫)p195より
「おいおい、馬鹿言っちゃいかんよ。それはどこの英雄物語のあらすじだ? あの男らしいミシェルに、そんな一途で健気な乙女の役が務まるわけがないだろうが」
「身代わり伯爵の告白 (角川ビーンズ文庫)」(清家未森・角川ビーンズ文庫)p239より
【09下期ラノベ投票/既存/9784044524104】
・「翼の帰る処2 鏡の中の空」(上下)(妹尾ゆふ子・幻冬舎コミックス幻狼ファンタジアノベルス)
北嶺領を治める皇女の元で働くヤエトは、今日も今日とてひたすらに若隠居を望んでいるのに、望みが叶うあてもなく、それどころか出世街道を望みもしないのに進んでしまう始末。病弱な一史官のはずが、どんどん責務を負わされ、仕事を自分で増やしていく哀れなヤエトくんの苦労話。今回は、出世街道がしがし登らされることになってしまって半泣きなところからスタート(笑)。
ヤエトは、みかけは二十代ぽいのですが、三十七という設定です。その年にふさわしい、(たまにはただこねねみたいなことも考えるけど)これがこうだからこうしなくちゃいけないよな、というところが少なくとも外から見るとちゃんと行える。それが気持ちよいです。今回はいろいろと舞台がくるくると変わっていくのも楽かった。なんたって妹尾さんの描く世界ですから、その土地その土地には、特有の風土や信じられているもの、そこから現れてきた芸術や行い、建物などがきちんとある。それを覗かせてもらっているような感覚がほんと楽しい。相手を全面的に信じられないような緊張感も面白い。
特にコアなファンタジー読者でなければ、妹尾ゆふ子さんの作品は、このシリーズから入るのがおすすめです。ラブ要素苦手な人でも楽しめると思います。特に女子向けという内容でもないので、男子でも楽しめると思います。皇女可愛いしね!ヤエトの無自覚にやたら人を籠絡っぷりを楽しんでください(^^)……皇女のライバルは増えるばっかりですなー。伏線もまかれてきたし、今後も楽しみにしています!
ヤエトは、なんでも屋になどなりたくない。むしろ、なんにもしない屋でありたい。
彼が望むのは、穏やかで暇でだらけた余生だけである。つまり、可及的すみやかな隠居だ。
「翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈上〉 (幻狼ファンタジアノベルス)」(妹尾ゆふ子・幻冬舎コミックス幻狼ファンタジアノベルス)p37より
「謝ることはない。それをひっくり返すのだぞ、これから。胸が躍るではないか」
皇女「翼の帰る処〈2〉鏡の中の空〈下〉 (幻狼ファンタジアノベルス)」(妹尾ゆふ子・幻冬舎コミックス幻狼ファンタジアノベルス)p135より
【09下期ラノベ投票/既存/9784344817401】
・「アニスと不機嫌な魔法使い」4巻(花房牧生・ホビージャパンHJ文庫)
アニスの妄想暴走が楽しい異世界ファンタジー。アニスたちはジークの実家にお邪魔することになった。楽しい旅行にアニスの調子は上りっぱなし?アニスは、「物語」を楽しむことができる少女なのが、私がこの話を好きな理由なのかなあと思いました。最近、「本」をテーマにした小説がライトノベルではやっているみたいなのですが、そういうのよりも、このアニスのシリーズの方が、「物語」への愛情を私は感じてなりません。
『竜の花嫁……あなたは所詮、神の道具なのですからね』
「アニスと不機嫌な魔法使い4 (HJ文庫)」(花房牧生・ホビージャパンHJ文庫)p199より
【09下期ラノベ投票/既存/9784894259188】
・「さよならピアノソナタ encore pieces」(杉井光・アスキーメディアワークス電撃文庫)
本編全四巻は、青春+音楽+恋愛の傑作です。正直、私は杉井光はこの作品以外はぴんとこないのだけれど、この作品はすごく特別な熱と熱だけじゃないものを感じる。その短編集として一年ぶりに出た作品。読んでいて幸せだった。このシリーズ読んでて良かった。私が特にぐさっときたのはユーリが主役の「ステレオフォニックの恋」。二つに引き裂かれるようなユーリの想いが変質していくところがすさまじくよかった。今までシリーズを読んできた方にはもちろんおすすめですし、シリーズ読んでない方は、「翼に名前がないなら」だけ読むなんて寸法もあったりなかったり。幸せな時間でした。ありがとうございました。
『けれど、あなたはまだその気持ちをつかめていない。それはあなたの恋ではありません。自分が恋をした瞬間のことを思い出して、それを離さないようにしなさい』
ルビンシテイン教授「さよならピアノソナタ―encore pieces (電撃文庫)」(杉井光・電撃文庫)p223より
【09下期ラノベ投票/既存/9784048680783】