なまくらどもの記録 ver.2

読了記録(節操無しエンタメ系)

2008年度に私が読んだ小説ベスト10

荒野の恋」(桜庭一樹エンターブレインファミ通文庫 
荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)荒野の恋 第二部 bump of love (ファミ通文庫)
 十二歳の少女、荒野は人に触られるのが苦手。「恋」を知らない彼女は、一人の少年と出会うが−−ひとづきあいがあまり上手くない少女が、恋としらずに感情を育てていきつつ、一人の女性として1mmずつ成長していく話。
 コバルト文庫にこそ入っているべき、というような、これぞ少女小説!という話。あまり私のツボポイントばかりついてくるので、たまらなく好きだ。文藝春秋版(「荒野」)は、ファミ通文庫版「荒野の恋」+第三部書き下ろしの完全版ですが、あえてミギーさん挿絵のファミ通文庫版をおすすめ。私がこの話を好きなポイントは、少女時代からの成長過程を、ゆっくりゆっくり描いているところ。身体の変化、こころの変化、それにともなう嫌だというきもちと嬉しい気持ち、怖いという気持ち、その過程のひとつひとつがそそるネタばかりで、も〜たまりませんな〜というところです。女の出入りが激しい父親の影響で、荒野が少し周りよりゆっくりと、周りの様子を見ながら少しずつ変わっていくのがとてもよい。この父親がもーだめだめなところが楽しかった。「私の男」のやわらかい版というか。少女小説といっても、甘々なのではなく、荒野の周りには彼女を傷つけるものがたくさんやってきて、それでも荒野は立ち向かうのではなく、うちまかされるのではなく、すっくとただ立って周りを見ているような話なので、そういうのが苦手な人もいかがかと。紺野キタさんが好きな方には、特におすすめ。

「荒野、そこにときめきはあるかい?」
山野内正慶「荒野の恋〈第1部〉catch the tail (ファミ通文庫)」(桜庭一樹ファミ通文庫

「日々ときめくってのは、素敵なことなんだよ。じつは」
山野内正慶「荒野の恋 第二部 bump of love (ファミ通文庫)」(桜庭一樹ファミ通文庫)p106より

→この作品が好きな人へおすすめな作品
  三月、七日。 (ファミ通文庫)」「三月、七日。―その後のハナシ (ファミ通文庫)」昔の少女マンガのような展開ですが、そこからの運びがとても新鮮でした。お互いにさびしい少年と少女である三月と七日が、お互いに何かを見いだし、そしてつながっていくときの喜び、知った哀しみ、そこから知る感情が、丁寧に描かれています。続編とセットでおすすめです。


「"文学少女"シリーズ」(野村美月エンターブレインファミ通文庫 
“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫)“文学少女”と神に臨む作家 上 (ファミ通文庫)“文学少女” と神に臨む作家 下 (ファミ通文庫)“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫)
 文芸部の遠子先輩は、物語を書いた紙をぱくぱく食べる「妖怪」。彼女の「おやつ」のため、井上心葉は毎日三題話を書かされていた。"文学少女"の周囲で起こる文学がらみの事件を描いたシリーズ。毎回ある文学作品をテーマとして、現在の青少年たちの悩みや苦しみ、悲しみを上手く描き出しているシリーズです。ラストはちょっと心葉くんのヘタレ具合にひきぎみでしたが、それまでは素晴らしく面白かったです。ヘタレくんが好きな人、ヤンデレ気味な人が好きな人には特におすすめですが、ふつうに文学が好きな人にもおすすめ。国内外の文学を愛する遠子先輩の物語を語る魅力は絶大です。シリーズ完結。短編集も込みでおすすめ。

「けど、醜い現実があるのなら、美しい現実も存在しているんです」
心葉「“文学少女” と神に臨む作家 下 (ファミ通文庫)」(野村美月エンターブレインファミ通文庫)p268より

 狭き門は、すべてを捨てて入らなければならない至高の門じゃない。
“文学少女”の追想画廊」(竹岡美穂野村美月エンターブレイン)「いつか、きみに会う日まで」p108より

 人魚の姫は、成長した王子と一緒に海の王国を出て、太陽が輝く陸の国へ向かうのだ。
 そこで傷ついたり、悩んだり、嬉しかったり、幸せだったりしながら、きっと、図太く生きてゆく。
“文学少女”と恋する挿話集 1 (ファミ通文庫)」(野村美月エンターブレインファミ通文庫)p223「無口な王子と歩き下手の人魚」より

→この作品が好きな人へおすすめな作品
  “文学少女”の追想画廊」「コラボアンソロジー2 “文学少女”はガーゴイルとバカの階段を昇る (ファミ通文庫)」書き下ろしショート付きイラスト集と、他の作家、作者自身によるコラボアンソロジー。特に後者は楽しかった!野村美月さん、はぢけすぎ!(笑)


さよならピアノソナタ」全4巻(杉井光電撃文庫
さよならピアノソナタ (電撃文庫)さよならピアノソナタ〈2〉 (電撃文庫)さよならピアノソナタ〈3〉 (電撃文庫)さよならピアノソナタ〈4〉 (電撃文庫)
 元天才少女ピアニスト、真冬と同じクラスになったナオ。密かに隠れ家にしていた防音室をとられて怒った彼は、勝負に勝ったら防音室を使わせてくれ、と申し込んだ。なぜかピアノをやめてクラシックをエレキギターで奏でる真冬、いつもつっけんどんで、でもナオに話しかけてくる。彼らの物語は、どこへゆくのか。
 1巻は、私は正直いまいちかなーと思ったけれど、3巻を最高峰に音楽と青春と恋愛の上り調子がものすごかった。クラシックのうんちくとロックなどの他の音楽を活かした物語、その合間に入る不器用なラブがたまりません。キャラクター配置的には典型的なハーレムタイプなのですが、ひとりひとりがしっかりとそれぞれらしくいきいきとしているので、心地よく読めます。女性にもおすすめ。音楽の疾走感とか、音楽でぐっとくることがある人なら、ぜひ読んでほしい作品です。良い意味でライトノベルらしくない端正さをもっているので、ライトノベル読み以外の方もいかがでしょうか。

「答えは簡単。人間は恋と革命のために生まれてきたんだ」
神楽坂先輩「さよならピアノソナタ (電撃文庫)」(杉井光電撃文庫)p117より

「うん。あたしも困る。不戦勝も不戦敗も好きじゃないし」
千晶「さよならピアノソナタ〈2〉 (電撃文庫)」(杉井光電撃文庫)p69より

 ぼくの中の、真冬のための場所が、大きくなりすぎていて。
さよならピアノソナタ〈3〉 (電撃文庫)」(杉井光電撃文庫)p238より

「ぐるっと一巡りして同じところに戻ってきたけれど、今はもう傷だらけで、かわりに自分の足だけで立っているじゃないか。それが成長じゃないというのなら、この世におとななんて一人もいないことになる」
神楽坂先輩「さよならピアノソナタ〈4〉 (電撃文庫)」(杉井光電撃文庫)p237より


マーベラス・ツインズ」「マーベラス・ツインズ契」(古龍・川合章子訳・コーエーGAMECITY文庫) 
マーベラス・ツインズ (1)謎の宝の地図 (GAMECITY文庫)マーベラス・ツインズ (2)地下宮殿の秘密 (GAME CITY文庫 こ 2-2)マーベラス・ツインズ (3)双子の運命 (GAME CITY文庫 こ 2-3)
マーベラス・ツインズ契 (1)だましあい (GAME CITY文庫 こ 2-4)マーベラス・ツインズ契 (2)めぐり逢い (GAMECITY文庫)マーベラス・ツインズ契 (3)いつわりの仮面 (GAMECITY文庫)マーベラス・ツインズ契 (4)貴公子の涙 (GAMECITY文庫)
 名高い悪人が集まった悪人谷で育った少年、小魚児は里に一人で降りてきた。小魚児が「弟子」にした少年が持っていた宝の地図を追って、とてつもなく強い(ツンデレ)美少女などがやってきた!
 いわゆる武侠小説の類に入るもので、昔の中国の江湖を舞台としたちょっと伝奇が入った小説です。ですが、戦いの描写は最小限で、小魚児はほとんどハッタリでなんとかしてしまうので、女性でも楽しめると思います。ライトノベルっぽく翻訳してあるし、挿絵も魅力的なので、そのあたりの読者におすすめ。小魚児は現世的な欲や悪いこと善いことという判断にとらわれず、美少女に対して(仕返しとして)平手打ちしたり、けっこーひどいこともしてるのに、なまぐさくなく、からっとしているので本当に楽しく読めます。対する二人目の主人公、花無缺は最初は善すぎて気持ちわるいところもあるのですが、それがだんだ変わってくるのがこれまた快感。
 「契」は、それまでの数年後を描いた話になっている。成長したらどうかなーと思ってたけど、恋愛要素がいい味出していてとてもよかった。
オフィシャルサイトもなかなかおすすめです。
http://www.gamecity.ne.jp/marveloustwins/

 小魚児は幼いとき、悪人谷で「恐怖心」を捨てるように訓練された。そのため彼は「恐い」と感じる状況になればなるほど、「おもしろい」と感じるようになっていた。
マーベラス・ツインズ (2)地下宮殿の秘密 (GAME CITY文庫 こ 2-2)」(古龍・川合章子訳・コーエーGAMECITY文庫)p259より

「期間限定の友だちなんて、天下広しといえども俺たちだけだ。珍しくておもしろいじゃないか」
小魚児「マーベラス・ツインズ契 (2)めぐり逢い (GAMECITY文庫)」(古龍・川合章子訳・コーエーGAMECITY文庫)p277より

「《移花接玉》の技を使うためには、第一段階として、倒立して手を足としなければならない。両足を開いて頭をそらせ、息を殺して気を鎮める」
小魚児「マーベラス・ツインズ契 (4)貴公子の涙 (GAMECITY文庫)」(古龍・川合章子訳・KOEI GAMECITY文庫)p261より

→この作品が好きな人へおすすめな作品
  歓楽英雄〈上〉文無し野郎の掟 (歴史群像新書)」「歓楽英雄〈中〉賭けるものなし (歴史群像新書)」「歓楽英雄〈下〉さすらいの異郷 (歴史群像新書)」同居している四人の男たちがトラブルに次々に巻き込まれていくが、友情とハッタリなんかで切り抜けていく話。ラブ成分もみつちり(笑)。ほんとはこっちをベスト本に入れたいぐらい楽しかった。でも、絶版だしね……。図書館で読めるかも。特に男装少女好きならぜひ。


「嘘つきは姫君のはじまりシリーズ」(松田志乃ぶ集英社コバルト文庫
嘘つきは姫君のはじまり ひみつの乳姉妹 平安ロマンティック・ミステリー (嘘つきは姫君のはじまりシリーズ) (コバルト文庫)嘘つきは姫君のはじまり 見習い姫の災難 平安ロマンティック・ミステリー (嘘つきは姫君のはじまりシリーズ) (コバルト文庫)
 乳姉妹である貧乏な姫君、馨子にお仕えしている宮子。強盗?に襲われ、気がつくと馨子の名で呼ばれていた。どうも、立場を入れ替えて馨子の父方の親族に紹介してしまったらしい。これにはある計画が関わっていて……。貧乏育ちだけど賢く奔放な馨子の相手にひーひーいっている乳姉妹の宮子が、腹ぼての馨子の代わりに姫君役をやらされて、まあ少女小説らしくどきどきなところもあるのですが、基本的にはミステリだったりする中世ロマネスク。
 ちゃんとこの時代の道具でトリックをつくってミステリしてるので感心しました。普通、時代ものとかだと、今の言葉を使わないと説明がしにくかったりするのだけど、文章を読んでいて、ひとつも「えー、こんな言葉使っていいの」とひっかかることがなく、あくまでこの時代のもので勝負しているので、雰囲気が崩れない。おすすめです。一巻はおしい!と思ったけど、二巻ですごい!になりました。一巻読んで止めている方は、ぜひ二巻を読んでください!

「くちびるに紅を、舌にはちょっぴりの嘘をのせて、女の子はきれいになるのよ。おぼえておきなさい、宮子、嘘は姫君の嗜みだからね」
馨子「嘘つきは姫君のはじまり ひみつの乳姉妹 平安ロマンティック・ミステリー (嘘つきは姫君のはじまりシリーズ) (コバルト文庫)」(松田志乃ぶ集英社コバルト文庫)p298より

→この作品が好きな人へおすすめな作品
  ざ・ちぇんじ!〈前編〉―新釈とりかえばや物語 (1983年) (集英社文庫―コバルトシリーズ)」「ざ・ちぇんじ!〈後編〉―新釈とりかえばや物語 (1983年) (集英社文庫―コバルトシリーズ)」男女の双子が平安時代で入れ替わる話。もーちろん氷室冴子さんをここではおすすめせずには!ということで。マンガ版(「ざ・ちぇんじ! (第1巻) (白泉社文庫)」「ざ・ちぇんじ! (第2巻) (白泉社文庫)」)もおすすめ。


「オペラシリーズ」(栗原ちひろ角川ビーンズ文庫 
オペラ・エテルニタ 世界は永遠を歌う (角川ビーンズ文庫)オペラ・カンタンテ 静寂の歌い手 (角川ビーンズ文庫)オペラ・フィオーレ 花よ荒野に咲け (角川ビーンズ文庫)オペラ・エリーゾ 暗き楽園の設計者 (角川ビーンズ文庫)
オペラ・ラビリント―光と滅びの迷宮 (角川ビーンズ文庫)オペラ・グローリア―讃えよ神なき栄光を (角川ビーンズ文庫)オペラ・メモーリア―祝祭の思い出 (角川ビーンズ文庫)オペラ・アウローラ―君が見る暁の火 (角川ビーンズ文庫)
 東方の薬師で、体内に魔物を飼っているため常に病弱に見えるが剣は強いカナギ。自分には心がないといいはり、常に虚飾ばかりの空言ばかり繰り延べているように見える白皙の詩人こと、ソラ。カナギを狙う暗殺者として現れたが、目的を見失い、二人と一緒に旅をするようになった姿こそ華奢で可憐だが強大な魔法力を持つミリアン。三人の旅が終わるときがやってきた。シリーズ完結巻+短編集。
 神と人の物語、というよりは、人形が人となり、人から神となる話として面白かった。世界の成り立ちがなかなか面白いので、そういうのに興味ある人もいいかも。私が特に面白かったのは、三人(というよりは主にカナギとソラ)のかけあいのところ。会話のテンポが非常によいので楽しめました。表紙を見るとごてごてした印象ですが、ちょっと雰囲気退廃的ではあるけど、一本気でものごとを単純にしたがるカナギはぜーんぜん虚飾的ではないです。少女少女もしてないし、BLでもないので、男性でも楽しめると思います。ミリアン可愛いし〜。最初の巻ではいまいちかなと思いましたが、次の巻のラストでもってかれました。

「…………お前なあ。そうやって他人に手を出す前に、とっとと自分を救ってやれよ」
カナギ「オペラ・カンタンテ 静寂の歌い手 (角川ビーンズ文庫)」(栗原ちひろ角川ビーンズ文庫)p89より

「お前、その、『お前を作った』奴のこと、殴った方がいい」
カナギ「オペラ・フィオーレ 花よ荒野に咲け (角川ビーンズ文庫)」(栗原ちひろ角川ビーンズ文庫)p157より

「なあ詩人。お前……実はその顔で、実年齢は六〇代だったりしないよな?」
「違いますよ」
 詩人は即答して緩慢に瞬くが、カナギはまだ安心できない。ひきつった顔で問いを重ねる。
「じゃあ、今朝食ったものはなんだ?」
「嘘のつまった鳥のつぼ焼き」
「埋まれ! 墓に!」
カナギとソラ「オペラ・エリーゾ 暗き楽園の設計者 (角川ビーンズ文庫)」(栗原ちひろ角川ビーンズ文庫)p23より

「他人のために命がけになっちゃ悪いのか? 戦友とか仲間とか家族とか言えば納得するのか? 冗談じゃない、気色悪い!……いやまあソラは仲間って言えば仲間だけど、仲間だって他人だろうが。俺の親族は全員東方で死んだ、あとは他人ばっかりだ、だけどな、他人のために命がけになるくらいしか、俺の人生やることないんだよ!」
カナギ「オペラ・ラビリント―光と滅びの迷宮 (角川ビーンズ文庫)」(栗原ちひろ角川ビーンズ文庫)p80より

「お前が死んだって、世界は回る。――でも。でも、お前のいない世界はお前のいる世界とはきっと少しだけ違う」
カナギ「オペラ・グローリア―讃えよ神なき栄光を (角川ビーンズ文庫)」(栗原ちひろ角川ビーンズ文庫)p46より

「カナギ、君、この三人の中で自分は比較的『一般人』だと思っているでしょう?」
ソラ「オペラ・メモーリア―祝祭の思い出 (角川ビーンズ文庫)」(栗原ちひろ角川ビーンズ文庫)p223より

→この作品が好きな人へおすすめな作品
  魔法の庭〈1〉風人の唄 (ファンタジーの森)」 妖魔の王とうたびとの「魔法の庭」を目指す二人旅。出版社倒産のため絶版ですが、図書館・古本屋などでぜひ。全3巻。


「翼の帰る処」(上下)(妹尾ゆふ子幻狼ファンタジアノベルス
翼の帰る処 上 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-1)翼の帰る処 下 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-2)
 病弱な上にある「症状」を持つヤエトは、ひたすら隠居することを夢見ているのに、ついつい正直に発言してしまうことから、やっかいごとに巻き込まれがち。尚書官として辺境の地へ追いやられたヤエトは、これでゆっくりできるかと思っていたが、新たなやっかいごとを抱えただけだと知るが、更にその上の事態が待っていた。隠居願望第一なのに、ついつい他のことが気になってしまって人からの好意を寄せてしまううっかりさん、ヤエトくんの苦労記(笑)。
 今までの妹尾ゆふ子さんの作品の中で、一番会話が楽しい作品になったのではないかと思います。上巻のフィールドワーク的な伝承からの推察や、「名前」が意味を持つ世界ならではでの設定など、私のツボが押されまくりでした。あー面白かった!舞台は異世界でファンタジーな設定もありですが、ライトノベルの読者でも楽しめる作品になったのではないかと。主役は隠居ご希望の苦労性な男性なので、男性も充分楽しめると思います。続巻も構想中のようなので、楽しみです。

 「……正統派を名のるには、若すぎませんか。実年齢もですが、見た目も」
「見目より心です。心構えが、隠居なのです。正統派が駄目なら、本格派隠居でも結構です」
伝達官とヤエト「翼の帰る処 下 (幻狼ファンタジアノベルス S 1-2)」(妹尾ゆふ子幻狼ファンタジアノベルス)p48より

→この作品が好きな人へおすすめな作品
  オペラ・エテルニタ 世界は永遠を歌う (角川ビーンズ文庫)」 上で紹介していますが、オペラ・シリーズ。病弱だけど気が弱くはない主人公ということで。


守り人シリーズ」(上橋菜穂子偕成社ワンダーランド) 
天と地の守り人〈第1部〉 (偕成社ワンダーランド)天と地の守り人〈第2部〉 (偕成社ワンダーランド 33)天と地の守り人〈第3部〉 (偕成社ワンダーランド)流れ行く者―守り人短編集 (偕成社ワンダーランド 36)
 シリーズ完結編+短編集。皇太子チャグムの行方を密かに探るバルサの道行きを心配しているタンダだが、彼もまたこの事態に巻き込まれていく。今回は戦争がテーマなので、さまざまな国の人々のさまざまな立場の人々が、それぞれ、悪人、善人ということではなく、それぞれの立場と願いを持って、他人の行動を予測して自らの行動を起こす、ということがいくつもいくつもの流れであらわされていました。このシリーズを子どもの時に読めたら幸せだったろうなあ、と思います。シリーズ始まった時に私はもう大学生だったのでまあそれはないですが。うらやましい。世の中にうごめいている人たちが、一人ひとり思惑と思いがあるということに、これを読んだ人が気づいていければいいなと思います。
 短編集がまたこれ絶品。タンダやバルサの子供時代の話なのですが、未熟な彼らがあいらしくっても〜、ジグロも超絶かっこいい。シリーズ読んでてこの短編集読まないのはありえない!てなぐらい濃密な一冊でした。

「みごとなホイだったね。」
バルサ天と地の守り人〈第2部〉 (偕成社ワンダーランド 33)」(上橋菜穂子偕成社ワンダーランド)p283より

「たとえば……あんたが盗賊にさらわれた子どもをたすけたとしたら……傷をおいながら、ひっしになって、子どもをたすけたとしてさ、その子を母親のところにつれていってやったのに、母親が、こういったら、どんな気がする?――きっと、あなたには神さまがやどっておられたのですね。神さま、どうもありがとう……。」
バルサ天と地の守り人〈第3部〉 (偕成社ワンダーランド)」(上橋菜穂子偕成社ワンダーランド)p329より

「そのときがきたら、ためらうな。――一瞬もためらうな。」
ジグロ「流れ行く者―守り人短編集 (偕成社ワンダーランド 36)」(上橋菜穂子偕成社ワンダーランド)「流れ行く者」p255より

→この作品が好きな人へおすすめな作品
  チャリオンの影 上 (創元推理文庫)」「チャリオンの影 下 (創元推理文庫)」おじさんががんばる異世界もの。少しだけ魔術(というか呪術)がありますが、基本は宮廷陰謀モノ。翻訳ですが、比較的読みやすいと思います。


「祈祷師の娘」(中脇初枝・福音館創作童話シリーズ) 
祈祷師の娘 (福音館創作童話シリーズ)
 祈祷師の家で四人家族で暮らしている中学生の少女。しかし、その家では一人だけ血がつながっていないのは彼女だけ。だから、祈祷師としての力も持っていない。だが、彼女は「おかあさん」の代わりに毎朝水ごりをしている。
 淡い恋と裏切り、一所懸命に生きている幼い子とその子に冷たい周囲、と児童文学にふさわしく、少々現実すぎて痛々しいところもあるのですが、それもまた現実。それだけに、ラストまで納得して読めました。しっとりといい話です。大人の女性にもおすすめ。タイトルにびびってしまう方もいらっしゃるでしょうが、決して祈祷の素晴らしさを訴えるわけではなく、ここでの祈祷は民間療法の少し進んだ形のような感じで、これで苦しい人がすくわれるんだからいいんじゃないか、と思わせてくれるようなあり方です。(暴利をむさぼっているわけではないし)大人の女性にもおすすめです。


「夜と霧 新版」(ヴィクトール・E・フランクル池田香代子訳・みすず書房
夜と霧 新版
 心理学者、強制収容所を体験する。というテーマで、ある一人のユダヤ人心理学者が自らの体験から書いた本です。私は映画「シンドラーのリスト」が好き、というと語弊があるけれど、とても心に残っている作品でたまにすごく見たくなる時がある。毎回一番ぐっとくるのは、淡々とホームに残された荷物を分別していくシーン。二度と持ち主に帰ることなどない持ち物を分別しているのは、また差別されている人たちであり、そこで価値がないとして無造作に捨てられる大切な写真たちは、その人たちの死も意味する。そんな体験をして、かつ家族も全て失った人が、こんな冷静に、オレはかわいそうだろ!と叫ばずに、こういうこころの動きがあった、ということをただ淡々と記していった本です。
 普段はドキュメンタリーは読まないのですが、読んでよかった。非常にわかりやすいことばで語られているので、普段こむずかしい本を読まない方でもOKです。下の言葉なんて、ゲームとかで出てきそうな言葉だけど、こんな体験をしたひとに、こんなふうに語られると、とても説得力がある。

 しかし、行動的に生きることや安逸に生きることだけに意味があるのではない。そうではない。およそ生きることそのものに意味があるとすれば、苦しむことにも意味があるはずだ。
夜と霧 新版」(ヴィクトール・E・フランクル池田香代子訳・みすず書房)p113より