なまくらどもの記録 ver.2

読了記録(節操無しエンタメ系)

大人も楽しめる?こどもの本

 私は児童書もがんがん読む人なのですが、最近児童向けミステリを一般向けの作家が書いたり、垣根が薄くなってきた感があることなどから、おすすめ記事を書いてみたくなりました。
 わたしは、こどもの本でも、「正義」だけを描くのではなく、「うつくしくないもの」もこの世界には存在していて、それらをみつめるこどもの世界が描かれている話が好きです。

「倒立する塔の殺人」(皆川博子理論社ミステリーYA!)
倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)
 終戦間近〜終戦直後の、女学校に通う女子学生たちを描いた作品。綺麗さと汚泥、でもやっぱりきれいな彼女たちが切なく、楽しめた。現実には人がたくさん死んで、矛盾がたくさんある世界で生きている彼女たち。でも、現実を見据えて生きている少女もいて……。好きです。

 大人は、子供が持つ負の感情から、目をそらす。嫉妬や恨みや憎しみは、大人になってから生じるのではないということに、気づかないふりをする。<子供のために>書かれた本ときたら、大人が考える理想の子供というのがあって――そんな子供は、いない――その枠の中に子供をはめこむものばかりだ。十五、六ともなれば、感情のありようは大人と変わらない。そうして、抑制力は大人より弱い。
倒立する塔の殺人 (ミステリーYA!)」(皆川博子理論社ミステリーYA!)

「天山の巫女ソニン」(菅野雪虫講談社
天山の巫女ソニン 1 黄金の燕天山の巫女ソニン  2  海の孔雀天山の巫女ソニン(3) 朱烏の星天山の巫女ソニン(4) 夢の白鷺天山の巫女ソニン(5) 大地の翼
 三つの国が争う朝鮮半島風の半島が舞台。元巫女のソニンが、平民の生活に戻ったのもつかのま、王子の側仕えとして働くことになり、各国の貧しいものや富める者の生きる姿を見つめていく物語です。それぞれに特徴のある各国の性格が面白く、キャラクターものとしても楽しく読めました。「彩雲国物語」の初期あたりが好きな人に特におすすめです。

ソニンは冷静に見えるセオの言葉に疑問を感じました。自分の主のために働くことを無条件で「正しい」というのは、「正しくない」と思ったのです。
天山の巫女ソニン(4) 夢の白鷺」(菅野雪虫講談社)p210より

「日々修行し、鍛錬し、己の目に見えるわずかな景色から、この世がどう動くのかを見極めようとしている。あれのやっていることは、巫女そのものではないか?」
大巫女「天山の巫女ソニン(5) 大地の翼」(菅野雪虫講談社)p97より

「砂漠の歌姫」(村山早紀・軽装版偕成社ポッシュ)
砂漠の歌姫 (軽装版偕成社ポッシュ)
 村山早紀さんは、大人向けのものも書かれていますが、こども向けの本に織り交ぜられた苦い気持ちや大人のこどもへの目線がとてもぐっときます。

「歌も歴史も、人の心もね。たしかなものも、かわらないものもない。だから、なにかを信じすぎてはいけない。」
 ファリサ「砂漠の歌姫 (軽装版偕成社ポッシュ)」(村山早紀偕成社)P133より

「クロニクル 千古の闇シリーズ」(ミシェル・ペイヴァー・さくまゆみこ訳・評論社)
オオカミ族の少年 (クロニクル 千古の闇 1)生霊わたり (クロニクル千古の闇 2)魂食らい (クロニクル千古の闇 3)追放されしもの (クロニクル千古の闇 4)復讐の誓い (クロニクル千古の闇 5)決戦のとき (クロニクル千古の闇 6)
 オオカミの言葉がわかるトラクと、トラクを「兄貴」と慕うオオカミのウルフ、そしてトラクの友達レンたちの古代冒険ファンタジー。タイトルとあらすじから、なんかかっこよくて暗い話っぽく感じられるかもしれませんが、トラクのヘタレ・懲りない性格のせいで、とんだダメ坊やを見守るかっこいい仲間たちの話になってしまっています。またそこが嫌で楽しい感じがたまらん(笑)。石器時代時代考証もとてもよくされていて、臨場感がある。特に狼好きにおすすめです。なんといっても狼視点がある物語って!

「確かなことなど、どこにもないのだよ、トラク。おまえに勇気があるなら、おそかれ早かれその事実に直面するだろう」
フィン=ケディン「復讐の誓い (クロニクル千古の闇 5)」(ミシェル ペイヴァー・さくま ゆみこ訳・評論社)p406より

秘密の花園」(バーネット・土屋京子訳・光文社古典新訳文庫
秘密の花園 (光文社古典新訳文庫)
 インド帰りの女の子、メアリーはヒースの荒野の中の寂しいお屋敷にひきとられた。可愛げのないメアリーにはかまう者もいなかったが、彼女は隠された庭園を見つけたことから、少しずつ変わっていく。「魔法」がでてくるけど、これは神様や妖精がでてくる話ではなく、この世界にあふれている魔法にきづかなかったこどもたちが、きづいていく物語。だから、「魔法」なのです。育つものがうつくしく、この世界にあっていいんだと思わせてくれる素晴らしい作品です。私が好きな児童文学の五指に入る。この新訳はほんとうに読みやすくて、初めて読む大人におすすめです。