なまくらどもの記録 ver.2

読了記録(節操無しエンタメ系)

2012年度に私が読んだ小説ベスト10

「仮面の貴族 道化の使命」全3巻(ロビン・ボブ・鍛冶靖子訳・創元推理文庫 
仮面の貴族1 (道化の使命) (創元推理文庫)仮面の貴族2 (道化の使命) (創元推理文庫)仮面の貴族3 (道化の使命) (創元推理文庫)
 「ファーシーアの一族」シリーズの続シリーズの第二部完結巻。かつてこの国を救った英雄を助けた存在でありながら、その身を隠し、孤独に生きるフィッツ。次から次へと起こる困難の中、ついに倒れる!?
 この作品の魅力は説明が難しいのですが……主人公が主人公らしくないのも、その要因の一つだと思います。「かっこいい!」存在ではなくて、劣っているところがたくさんあって、でもすごいところもすごくあって、何より真摯で、他人なんてもう見捨てればいいのにできなくて、だからといって愚痴は心の中ぐらいにしておく。読み進めていくと、彼は「物語」の「主人公」ではなくて「触媒」なのだというのがよくわかってくるのです。
 読むなら、前シリーズの「騎士(シヴァルリ)の息子 上 <ファーシーアの一族> (創元推理文庫)」「騎士(シヴァルリ)の息子 下 <ファーシーアの一族> (創元推理文庫)」からがおすすめです。てゆーか、続きでないと困るんですけど!(^_^;;)

「それがきみの最大の欠点だよ、フィッツ。生まれてこなかたずっとそうだ。あまりに慎重すぎる。野心に欠ける」
仮面の貴族1 (道化の使命) (創元推理文庫)(ロビン・ボブ・鍛冶靖子訳・創元推理文庫)p317より

「泥も苦痛も不幸もなしにそんなふうに語られると、すばらしい物語のように聞こえる」
「泥と苦痛と不幸もを伴おうと、これはすばらしい物語なのだよ」
フィッツとシェイド「仮面の貴族2 (道化の使命) (創元推理文庫)」(ロビン・ボブ・鍛冶靖子訳・創元推理文庫)p150より

<見張りを頼む、ナイトアイズ>
フィッツ「仮面の貴族3 (道化の使命) (創元推理文庫)」(ロビン・ボブ・鍛冶靖子訳・創元推理文庫)p77より

→この作品が好きな人へおすすめな作品
  翼の帰る処 (上)」「翼の帰る処 (下)」苦労性の役人といえば、やはりヤエト様(笑)。フィッツは一旦隠居できただけましか!?(笑)新装版でだし直し中。

「追放者の矜持 ヴァルデマールの絆」(マーセデス・ラッキー・澤田澄江訳・中央公論新社C NovelsFantasia)
追放者の矜持 上 - ヴァルデマールの絆 (C・NOVELSファンタジア)追放者の矜持 下 - ヴァルデマールの絆 (C・NOVELSファンタジア)
 ヴァルデマール年代記シリーズは、翻訳ファンタジーで一番好きなシリーズです。今回は、ヴァルデマールの永遠の敵国、カース国出身でありながら<使者>となったアルベリッヒの物語。
 アルベリッヒは、ほかの物語でけして白衣を着ない、むちゃくちゃ厳しい<武術指南役>として以前から出演していましたが、まさか彼の過去話が読めるとは……。<使者>は「正しいひと」という前提なので、たいていの<使者>はいいこなわけですが、アルベリッヒは出身が出身なので、まーひねひね。すばらしいひねひねです!

「敵が我々をこの土地から追い出すことに成功しようとも――もちろんそんなことはさせないが――ヴァルデマールは生き続ける。」
センダー王「追放者の矜持 下 - ヴァルデマールの絆 (C・NOVELSファンタジア)」(マーセデス・ラッキー・澤田澄江訳・中央公論新社C NovelsFantasia)p74より

→この作品が好きな人へおすすめな作品
  チャリオンの影 上 (創元推理文庫)」「チャリオンの影 下 (創元推理文庫)」中年世代ががんばるファンタジーシリーズです。キャラクターが個性的なのも似通っている。

「ただ魅せられて」(メアリ・バログ・山本やよい訳・ヴィレッジブックス) 
ただ魅せられて (ヴィレッジブックス)
 メアリ・バログの「Simply」シリーズ完結編。きびしいけれどユーモアももっている校長、クローディアは友人の知り合いの男性にロンドンへ送ってもらった。彼の愛する人とは、そしてクローディアの意見を聞きたいと、彼は自宅へ彼女を案内した。
 全く「運命の出会い」とかではなくって、少しずつ知り合い、少しずつ理解しあい、少しずつ惹かれあっていく様が絶品!そして、男性も頑張るけれど、なによりもヒロインがかっこいいのがこのシリーズの魅力でもあります。そういうシーンもあるにはありますがかなりおまけ。そんなことで読まないのはもったいないぐらい、一般向け小説が好きな方、特に大人の女性におすすめな作品です。
→この作品が好きな人へおすすめな作品
  ふたたび、恋が訪れて (ラベンダーブックス)」二人の娘を持つ未亡人は、侯爵の領地の片隅に小さな家を見つけた。亡くなった夫の兄から逃げるため、その家を借りたのだが、侯爵が訪れて……。

「ハートに薔薇色のときめき」(風・アルファポリス・エタニティブックスBlanc) 
ハートに薔薇色のときめき (エタニティブックスBlanc)
 幼いころに、笑顔が気持ち悪いと言われて笑えなくなってしまった祥子。女の子には怖がられているが、職場では男の先輩とうまくやっている。あこがれの上司に今年こそはチョコを渡して、お返しのキャンデーをもらうんだ!と決意したが……。「やさしい風」の風さんの作品。
 エタニティブックスは、色でエロありかが分かれていて、この作品はエロなし。ラブコメ具合が大好きです。こんな男いないよな……と思いつつ、重要なのは「こういう男がいてほしい」ではなく、キャラクターの心情とか、すれ違いとか、そこの面白さが、風さんの話は私にはすごい絶妙だと思います。

「幽谷町の気まぐれな雷獣」(森崎緩・イースト・プレス・レガロシリーズ) 
幽谷町の気まぐれな雷獣 (レガロシリーズ)
 最近疎遠な男の幼なじみ。同級生だけど口も利かない日々だったのに、彼の「ある姿」を見てしまって……。(あ、えろくないっす(笑))「Tiny Garden」の森崎緩さんの描き下ろし作品。少女小説読みにはおすすめな……って、最近少女小説に現代ものってほぼないんですけど、とても面白かったです。私は「Tiny Garden」の大人のひとたちの恋愛話が好きなので、そっちも書籍化してほしいっす!!あ、学園ものも好きじゃー。女性向けネット小説恋愛ものの、非現実的なヒーローが苦手な方に特におすすめ。イケメンではあるけれど、実に等身大な男子がいいぜ!

「リテイク・シックスティーン」(豊島ミホ幻冬舎
リテイク・シックスティーン
 高校一年生になってできた親友が、なんか妙なことを言い出した。可愛くて胸も大きくて、頭も良い、彼女はほんとうに「うらやむべきひと」なのか……?
 「妙なこと」はほとんど関係なく、女子高生の日常を描いた物語なのですが、痛すぎず、かゆすぎず、読んでいて快感でした。誰もが、後悔と嬉しさとさみしさと、そんなものを抱えて生きていて、ひとのことを理解しようとせず、シャットアウトしていくことはしんどくて、くすりとしながら、歩いていくものなのかなあとかそんなことを考えました。説教臭くなく、不思議要素がメインでもなく、日常の姿を描いている「だけ」なのに、これだけの「物語」が描けるんだなあ。すごいなあ。おすすめ!今年は豊島ミホさんの作品をいろいろと読みましたが、これがベストでした。
→この作品が好きな人へおすすめな作品
  スコーレNo.4 (光文社文庫)」骨董品店の長女である麻子は、可愛らしい妹へのコンプレックスを抱えながら生きてきた。少女が中学生から会社員として働くまでの物語。恋愛だけではない、生きていく上で、恋愛もアリなんだ、というところまでゆきつくまでの麻子の悩んだり、ぐるぐる回ったり、ニヤニヤしたりする日常をお楽しみください。

サクラダリセットシリーズ」6・7巻(完結)(河野裕角川スニーカー文庫 
サクラダリセット6 BOY、GIRL and ‐‐ (角川スニーカー文庫)サクラダリセット7 BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA (角川スニーカー文庫)
 その市には、特殊な能力を持った人たちが混じって生活している。彼らはその市内でしか使用できないその力を使ったり、使わなかったり。「世界」を変えた管理局の人間に、「すべてを忘れない」ただ、それだけの能力を持つ少年、ケイが挑む。シリーズ完結!
 すごく透明感のあるシリーズでとても好きだったのですが、最初から最後までその感覚を失わず、ラストまでいってくれて、とてもうれしかったです。ケイ自身の持つ「特殊能力」は、けして「忘れない」というその点ではなく、他人を知り、彼らが「どうすれば」ケイの望む道をとってくれるのかを理解し、さまざまな知り合いの能力を借り、その状況に持ち込む。いわゆる頭脳戦ですが、そのケイの「目的」はとてもわがままで、だからこそ美しい。美しいけどその方法は美しくはない。そこに魅了されて、完結まで見守ることができてとてもよかったシリーズでした!女性にも大々的におすすめ!

 少女が眺めているのは、いつだって少年の物語だ。
 当たり前で、ともすれば幼い感情を、決して忘れることがない。
 複雑でシンプルな、大人のような少年が、たった一つを祈り続ける物語だ。
サクラダリセット7 BOY, GIRL and the STORY of SAGRADA (角川スニーカー文庫)」(河野裕角川スニーカー文庫)p419より

「英国マザーグース物語シリーズ」(久賀理世・集英社コバルト文庫 
英国マザーグース物語 婚約は事件の幕開け! (英国マザーグース物語シリーズ) (コバルト文庫)英国マザーグース物語 新聞広告には罠がある!? (英国マザーグース物語シリーズ) (コバルト文庫)英国マザーグース物語―哀しみのロイヤル・ウエディング (コバルト文庫)
 女の子であることを隠して、記者の仕事を始めた令嬢のセシル。その相棒は、実は兄に決められた婚約者だが、彼もその身分を隠していた。
 最近コバルトでいまいちよいシリーズがなくなってしまった感があったのだけれど、これはおすすめシリーズになりそうです。ラブコメもいいけど、ミステリ(日常の謎)もありで、かつ「いま」がもうすぐ終わってしまうことが保証付きなのが、スリリングさ+刹那のこのときの大切さ、さみしさを増長してよいです。

「わたしには、いましかないのに」
セシル「恋のドレスと湖の恋人 ヴィクトリアン・ローズ・テーラー (ヴィクトリアン・ローズ・テーラーシリーズ) (コバルト文庫)」(久賀理世・集英社コバルト文庫)p218より

→この作品が好きな人へおすすめな作品
  エージェント・コード~恋の陰謀は執筆のあとで~ (一迅社文庫アイリス)」貴族の子女でありながら、サーカス団で過ごしたこともあるライザは、諜報員見習いとしてのデビュー戦で、とんでもないトラブルに巻き込まれる。作者曰く、「正統派ツンデレ美少女と、仔犬系青年――でも仔犬って可愛くても肉食なんだぜ」とのテーマがまさに言い表しています。(^^)

「金星特急」5〜7巻(完結)(嬉野君新書館ウィングス文庫 
金星特急 (ウィングス文庫)金星特急 (6) (ウィングス文庫)金星特急 (7) (ウィングス文庫)
 謎の美女金星の婿を決めるためという金星特急は途中下車は許されず、命をもかけた旅。後から後から謎が出てきて、アクションも満載、いいひとだらけでもなく裏のかきあいが激しいシリーズ・完結。傷ついた少年と少女がそれぞれに考え、行動して、変わっていく姿を描いた作品として、それだけではないエンタテインメント作品として、女性にも男性にもおすすめです。ラブもあり、アクションあり、ダークな流れもあり。面白い物語を読んだ時の、「小躍りしたくなる」感覚を味あわせてくれる作品でした。

「無菌病棟より愛をこめて」(加納朋子文藝春秋
無菌病棟より愛をこめて
 日常の謎もので有名な加納朋子さんの闘病記。なんと、急性白血病だったそうです。加納さんらしい、ユーモラスなところが特に最初の方ではよく出ていて、話が進んでいくにつれ、数値に毎回どきどきさせられたり。病気って、サスペンスフルだ!病院関係者のかたたちもほんとたいへんだよなー……それでいて進歩もしなくちゃいけないってほんとたいへん。病気に興味がなくてもおすすめです。自分がなるかもしれない、そしてなっていない今はいかに幸運なのか、と思いました。そしてこんなにニヤニヤさせられるとは思ってなかったよ!